勃起障害と並ぶ男性性機能障害である射精障害について考えていきます。

「例えば、勃起できるが射精に至らない」のが射精障害ですが、症状はこれ以外にもあります。

今の症状とは真逆の早漏も、やっぱり射精障害なのです。

どんな病気があるのか、初めに整理しておきましょう。

実は射精障害の分類方法にもいくつかあるのですが、泌尿器科の医師としての私の経験も踏まえて、実情に近い形で述べてみたいと思います。

早漏とは?

まず、今お話しした「早漏」。

セックスの際、睦にペニスを挿入してからすぐに射精してしまう症状で、女性を十分に満足させることができずに「終了」になってしまいます。

一般的には、挿入後一分以内で射精してしまう状態のことを早漏と呼びます。

私は、不妊症の外来をしているので、射精しづらい遅漏の患者さんはたくさん診ますが、早漏の患者さんをそう多くは診ません。

早漏の訴えで受診する患者さんは外国人の方が多い印象があります。

擢患率は10%前後といわれており、海外の射精障害の研究はほとんどがこの早漏にまつわる研究です。

データベースで検索すると、1OOO本以上の論文がヒットしてきます。

逆行性射精症とは?

次に、「逆行性射精」というあまり聞きなれない症状があります。

その名の通り、本来ペニスの先から勢いよく「噴出」するはずの精液が、尿道を逆流して腸脱の中に出てしまうのです。

なぜそんなことが起こるのか? それは射精のメカニズムと深く関わっています。

射精には三つの段階があります。

精嚢でつくられた精液は、まず後部尿道に排出されます。

これが①エミッション。

次に②跨脱頚部の閉鎖が起こり、最後に③狭義の射精(後部尿道に排出された精液が、律動的に体外に射出される現象)が起こって、射精が完結するのです。

勃起は、脳から脊髄を通って勃起中枢に指令が送られ、ペニスの海綿体に血液が流れ込む現象です。

射精まで持って行くためには、さらにこの三つのアクションを連動して起こす必要があるのです。

裏を返せば、このメカニズムのどこかに問題が起こると、正常な射精ができなくなってしまう。

つくづく、オトコは複雑にできていると言わざるをえません。

では、逆行性射精がなぜ起こるのかというと、この②の段階がうまく働かないのですね。

尿道は、おしっこと精液の共通の通り道。

上部はおしっこを貯める跨脱にもつながっています(跨脱頚部)。

射精の際には、その跨枕頚部が閉じられるのですが、そこが緩んだままになっているから、精液がペニスのほうに向かわずに、より近い跨脱に流れ込んでしまう、というわけです。

ちなみに、逆行性射精でも射精感はあります。

精液が膀胱に回るだけですから、特に有害というわけでもありません。

ただ、言うまでもなく子どもを望む場合には、大問題になる症状です。

無射精症とは?

射精障害の三つ目が「無射精症」です。

これも読んで字のごとく、射精ができない、という状態です。

例えば不幸にも脊髄損傷などの事故を負ったり、がんの手術などで神経が切断された結果、神経の伝達障害を起こして射精ができなくなった状態は、「神経性射精不能」といいます。

また、神経には何ら問題がなく、精子もちゃんと生産されているのに、一度も射精ができない、という患者さんもいます。

こうしたケースにはいろいろな治療が試みられますが、子どもを希望される場合には、体外受精のために手術で精巣を切開して精子を取り出す、TESEという方法が用いられることもあります。

脊髄損傷患者は、この治療が有効だとされていますが、受傷後長期間経過すると、精子の質が低下したり、時に無精子症になってしまうということが起こります。

以前、このような患者さんにお会いしたことがあります。

もともとは、原因不明の無射精症でしたが赤ちゃんを希望されていたので、精巣から精子を取り出すTESEが予定されていました。

しかし、手術一週間前に突然キャンセルの連絡がありました。

こちらとしては、手術のドタキャンは非常に困るので、どうして手術中止を希望するのかを聞いたころ、なんと前日の夜に夢精をした、ということなの
です。

自分で射精をコントロールすることはできないのですが、ごくまれに夢精をすることはあるとのことでした。

そこで、至急その精液が付いているパンツをかかりつけの不妊治按専門医へ持参するように指示しました。

そこで確認したところ、運動良好な精子が多数確保できたとのことでした。

精子は凍結保存され、将来の不妊治療に供されることになりました。

遅漏とは?

最後が「遅漏」。

早漏の反対で、勃起はするのになかなか射精できない状態をいいます。

中でも問題は、「オナニーではイケるのに、女性の膣では射精できない」という「睦内射精障害」で、これまで述べてきた射精障害の中ではダントツに患者さんの数が多く、カルテベース上のデータでは半分がこのタイプなのです。

一二年に、勤務する濁協医科大学越谷病院で統計を取ったところ、射精障害を訴えて来院した患者さんの実に七七%が、この腫内射精障害でした(早漏・遅漏8%、逆行性射精11%、射精反射がない3%、その他1%)。

ちなみに、米国で最も有名な泌尿器科の教科書「キャンベル」では、射精障害を次の三つに分類しています。

すなわち、
①早漏・遅漏
②神経症
③逆行性

です。

「腫内射精障害」は上記の中でも遅漏のカテゴリーに入ります。

かつては、国際学会で腫内射精障害のことについて発表してもなかなか理解してもらえませんでしたが、近年は国際性機能学会の学会誌にも同様の内容が書かれていました。

日本も海外も共通なものとして、重要なリスクファクターは「間違った方法のオナニー」です。

そして、私の印象では外国人と比較すると日本人の睦内射精障害の患者は多いのではないかと思われます。